第7回 ユーカリラジアタ Eucalyptus radiata

特に上気道のトラブルに必須のエッセンシャルオイル
Eucalyptus radiata
Eucalyptus radiata

■科名:フトモモ科

■抽出部位:葉

■抽出方法:水蒸気蒸留法

■特性成分:

1,8-シネオール(モノテルペン・オキサイド類)65~80%

α-テルピネオール(モノテルペン・アルコール類)6~10%

リモネン(モノテルペン類)4~7% など

特徴

ユーカリにはとても多くの種があります。ただし、アロマテラピー用エッセンシャオイルの原料になる種は限られています。その中でも一番汎用性が広いのが、ユーカリラジアタです。1,8-シネオール(別名ユーカリプトール)が多く含まれるタイプのユーカリで、とてもさわやかな香りと使い心地です。主に呼吸器系の上部(耳鼻咽喉領域)に用いられます。

 

ユーカリグローブルスよりもやさしい香りなので、吸い込んでもむせたりすることがありません。ユーカリグローブルス同様に気管支の炎症、うっ血を除去して炎症を鎮めて痰を出しやすくします。また、鼻咽頭炎や副鼻腔炎、耳炎などにも優れた効果を発揮します。風邪や気管支炎などの場合はユーカリグローブルスとブレンドして用いるとより効果的です。

 

ラベンダーやローズマリー・シネオール、ラヴィンサラといったエッセンシャルオイルとブレンドし、植物油で薄めたものを耳の周りや首のリンパ腺に沿って塗布します。耳管のコンディションを改善し、粘液によってつまった中耳の通りをよくします。耳炎にはニアウリとラベンダーをブレンドします。

 

ユーカリラジアタには免疫能を刺激する作用もあるので、風邪、インフルエンザなどウイルスによる子供の感染症の治療にとても有効です。使いやすく安全なエッセンシャルオイルで、原液のまま皮膚に塗布してもなんら問題はありません。

主な作用

・免疫調節作用*があります。

・気道粘膜のうっ血・うっ滞を改善します。

・痰を切り、咳を鎮めます。

・鎮痛作用があります。

・副鼻腔の排液を促します。

・抗アレルギー作用があります。

・炎症を鎮めます。

・空気を清浄にします。

*免疫を暴走させることなく炎症を鎮める作用

 

備考

 ユーカリには性質の異なる多くの種がありますから、単に「ユーカリ」と表示してあるエッセンシャルオイルを使うのは危険です。

また、ユーカリラジアタとよく似たエッセンシャルオイルに、ユーカリグローブルスEucalyptus globulus があり、しばしば混同されて使われています。しかし、その作用特性は異なるので使い分けが必要です。

 ユーカリラジアタは主に耳鼻咽喉領域、つまり上気道のトラブルに、ユーカリグローブルスは主に気管支肺などの下気道のトラブルに用いられます。

 ユーカリラジアタ Eucalyptus radiata のエッセンシャルオイルは1,8-シネオールの含有率を高めるためにしばしば加工されます。このようなエッセンシャルオイルをアロマテラピーに用いることはできません。

Column 呼吸器系の感染症にはユーカリの蒸気吸入が有効

ユーカリラジアタやユーカリグローブルスなどユーカリ(Eucalyptus)属の呼吸器系感染症に対する治療効果について、科学的な検証に基づいて書かれた研究論文*の主なポイントを紹介します。ユーカリグローブルスとユーカリラジアタをブレンドして吸入に用いるとよいでしょう。

 

・ユーカリのエッセンシャルオイルとその主要成分である1,8-シネオールには、結核菌やメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)、真菌(カンジダを含む)など、多くの細菌やウイルスに対して抗菌・抗ウイルス作用があり、免疫調節作用、抗炎症作用、抗酸化作用、鎮痛作用、鎮痙作用があることが認められている。

 

・ユーカリのエッセンシャルオイルの蒸気吸入は、気管支炎、ぜんそく、慢性閉塞性肺疾患(COPD)などにも有益である。風邪やインフルエンザ、副鼻腔炎などの呼吸器系の感染症に民間療法として安全に使われてきた歴史があり、安全性と広い抗菌スペクトルにより、医薬品の代替品にもなりうる。

 

・蒸気吸入の方法としては、マグカップにお湯を入れ、ユーカリを2~4滴入れ、数分間吸入を行うのがよい。

 

Reference:

* Angela E. Sadlon, ND, and Davis W. Lamson, MS, ND (2010). Immune-Modifying and Antimicrobial Effects of Eucalyptus Oil and Simple Inhalation Devices. Alternative Medicine Review, 15(1), 33-47.

Column 花粉症にもユーカリの芳香浴や吸入

花粉が飛散する時期には、アレルギー性鼻炎(鼻水、鼻づまり、くしゃみなど)に悩む人は少なくありません。花粉症は国民病とも言われて久しいですが、「花粉症が原因で4分の1の企業で生産性低下」「花粉症の小学生、4人に1人「勉強に集中できない」気づかぬ親多く」(毎日新聞2024年3月5日および2月23日)など、花粉症が経済や生活に与えるダメージは大きいようです。

 

1,8-シネオールは別名ユーカリプトールとも呼ばれるように、ユーカリのすーっとした爽やかな香りがする成分で、アロマテラピーでは花粉対策などにも注目されている成分です。1,8-シネオールは様々なエッセンシャルオイル(ユーカリラジアタ、ユーカリグローブルス、ローズマリー・シネオール、ラヴィンサラなど)に含まれていて、芳香浴や吸入などにも使いやすいのが特徴です。

 

経験的に既に心得ている効果ですが、マウスを使った実験でも1,8-シネオールがアレルギー性鼻炎のマウスモデルにおいて症状を緩和することが確認されました。アレルギー性鼻炎のマウスに1,8-シネオールを点鼻によって投与すると、鼻の掻きむしりおよびくしゃみの回数を効果的に減少させることができたというものです。

 

この実験により、1,8-シネオールがアラキドン酸代謝経路(炎症を起こす酵素の生成過程)を阻害し、炎症性メディエーターの生成を減少させることで、アレルギー反応による炎症を抑制すること、そして、花粉症に関わるTh2型免疫反応を調節することにより、アレルギー反応が緩和されたことが示されました。これらの結果から、1,8-シネオールがアレルギー性鼻炎治療の新たな選択肢として有望であることが示唆されています*。

 

アレルギー性鼻炎に対する治療薬は、現在抗ヒスタミン薬と鼻内ステロイドであり、症状を和らげるのには効果的ですが、眠気、集中力の低下、倦怠感などの副作用があります**。こうした副作用のない、1,8-シネオールを使用した新たな薬剤の開発が期待されています。

 

ユーカリラジアタなどのエッセンシャルオイル(もちろん数種類をブレンドしても可)を、お湯を入れたマグカップに数滴たらして吸入すると適度な潤いも加わり、花粉の時期を快適にしてくれます。

 

Reference:

*Liu, F.-L., Rong, Y., Zhou, H., Yu, T., Liu, L., Cao, Q., Qin, Z., Qu, L., Liao, X., Jiang, Q., Zhang, N., & Xu, X. (2023). Cineole inhibits the biosynthesis of leukotrienes and prostaglandins to alleviate allergic rhinitis: Insights from metabolomics. Journal of Pharmaceutical and Biomedical Analysis, 234, 115574.

**Li, L., Liu, R., Peng, C., Chen, X., & Li, J. (2022). Pharmacogenomics for the efficacy and side effects of antihistamines. Experimental Dermatology, 31(7), 993-1004.