アロマテラピーに親しんでいる方にとってはおなじみのプチグレン(ビターオレンジ・リーブス)Citrus aurantium SD/DO leavesですが、その香りの印象は、実は蒸留方法や品質によって大きく左右されることがあります。
今日ではほとんど失われつつある希少な木製アランビックによって蒸留されたプチグレンは、やさしく落ち着いた香りとともに、格別の深みを持っています。
自然と伝統が息づくサスティナブルな香り
パラグアイの豊かな亜熱帯気候の中で育つビターオレンジ。その葉や若い枝から蒸留される「プチグレン」は、伝統的な農業と調和しながら生産されています。現地では、ゴマやキャッサバといった作物と並行してビターオレンジが栽培されており、植物残渣は肥料として再利用され、土地の再生にも貢献しています。さらに、マメ科植物の導入による自然な土壌改良が行われ、循環型農業が根付きつつあります。
アンティークのような蒸留器「木製アランビック」
このプチグレンが特別な理由のひとつは、蒸留に使われる「木製アランビック(蒸留器)」の存在です。現在では稀少となった木製蒸留器は、現地の固有種パウフェロ(Astronium balansae)の木材から作られ、代々受け継がれてきた蒸留の技術です。手間はかかりますが、エッセンシャルオイルの香りに独特のやわらかさと奥行きをもたらします。
手摘みで収穫されたビターオレンジの葉と枝、そして小さな未熟果(「プチグレン」の語源です)を蒸留し、100kgの原料からわずか300〜350mlしか得られないこのオイルは、まさに「自然からの贈りもの」と言えるでしょう。
成分の調和が生み出す「totum(トータム)」の力
このように丁寧に蒸留されたプチグレンは、リナロールと酢酸リナリルの理想的なバランスを持ち、その他にも多様な微量成分が調和しています。それらすべてが一体となって働く「totum(トータム)」として、繊細で洗練された香りと総合的な作用をもたらします。
心と体を静める自然なセラピー
アロマテラピーの大家フィリップ・メユビオ氏も、著書『La Nouvelle Aromatherapie』の中で、プチグレンの香りについて「不安や孤独感、イライラからくる緊張を和らげ、呼吸のリズムを整える香り」と記しています。ストレスの多い現代において、このような自然由来の穏やかな香りが、私たちの日常にそっと寄り添ってくれる存在になるかもしれません。