原料植物の産地 geographical originの表示が必要な理由として、特に植物学的に見て同じ植物(つまり植物学名が同じ)であっても、産地によって成分組成が異なる場合があるからです 。
例えばローズマリーRosmarinus officinalisの場合、フランスのプロヴァンス地方、コルシカ、そして北アフリカが主な産地ですが、成分構成は産地によって異なり、したがって適正使用法や使用目的も異なります。
●Rosmarinus officinalis BS camphor
慣用名:ローズマリー・カンファー
産地:プロヴァンス地方
香り:樟脳の香りが強い
特性成分:カンファー(樟脳)、1,8-シネオール、α-ピネンなど
主な作用特性: 筋肉の緊張をほぐします(皮膚塗布)。
カンファーを多く含むため、神経毒性と肝毒性があります。特に、長時間香りを嗅いでいると気分が悪くなる可能性があり、使用には注意が必要です。芳香浴と飲用には用いません。
●Rosmarinus officinalis BS 1,8-cineole
慣用名:ローズマリー・シネオール
産地:北アフリカ
香り:染みとおるような爽やかな香り
特性成分:1,8-シネオール、少量のカンファー(樟脳)、α-ピネンなど
主な作用特性:上気道および下気道の炎症を鎮めます。血液循環を促します。肝臓の働きをよくします。
●Rosmarinus officinalis BS bornyl acetate, verbenone
慣用名:ローズマリー・ベルベノン
産地 :コルシカ島
香り / やわらかみがあり、松脂を思わせる香り
特性成分:酢酸ボルニル、ベルベノン、1,8-シネオール、α-ピネンなど
主な作用特性 / 肝臓の働きをよくします(飲用)。
「ローズマリーは肝臓にいい」 とよく言われますが、それはコルシカ島産のベルベノン・タイプと北アフリカ産のシネオール・タイプに該当することです。カンファーを多く含むプロヴァンス地方産のものを内服すれと、逆に肝臓に負担をかけることになってしまいます。カンファーとは防虫剤に用いる“樟脳”のことです。当然、カンファーを多く含むプロヴァンス産のローズマリーは芳香浴にも向きません。
ローズマリーのように、植物学的に見てまったく同じ植物 (形態も同じ、学名も同じ) であるにもかかわらず、産地やビオトープの違いによって、成分組成が異なるエッセンシャルオイルのことを 「ケモタイプ Chemotype」 といいます。
ケモタイプのエッセンシャルオイルはローズマリーの他に、タイムThymus vulgaris(チモールタイプ、リナロールタイプなど)、ラヴィンサラ Cinnamomum camphora(シネオールタイプ、カンファータイプなど)、バジルOcimum basilicum(メチルチャビコールタイプ、リナロールタイプなど) があります。