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花粉の「つらい」にアプローチするエッセンシャルオイルの成分
2026年 1月 27日

花粉症では、からだの中で何が起きているの?
春が近づくと、目がかゆい、鼻水が止まらない、鼻が詰まって頭がぼんやりする。くしゃみが続いて、集中力も奪われる……。
命に関わる病気ではないかもしれませんが、花粉症は日常の質を確実に下げてしまう不調です。この不快感の正体は、からだの防衛システムが、必要以上に働いてしまっている状態にあります。
私たちの免疫は、本来とても優秀です。ウイルスや細菌のような本当に危険な侵入者だけを見分け、必要なときだけ反応する仕組みを持っています。ところが、花粉症では、花粉という、本来は無害なものに対して免疫が「これは危険だ!」と勘違いしてしまいます。
例えるなら、
- ただ通りすがった無害な訪問者なのに
- 警報ベルが鳴り響き
- 放水装置が作動し
- 警備員が一斉に集結する
そんな状態です。
その結果、
- くしゃみが出る(警報が鳴る)
- 鼻水が止まらない(放水が止まらない)
- 鼻が詰まる(現場が混乱して通れない)
- 目がかゆく、赤くなる(周囲が過敏になる)
これが、花粉に触れてすぐに起こる反応です。
さらに数時間が経過しても、一度集まった警備員たちは退去せずに居座るため、炎症や腫れ、不快感が長引きます。これは、免疫の防衛システムが「念のため」を優先し、安全が確認できるまで警戒を解かない仕組みになっているためです。
つまり花粉症とは、「敵ではないものに対して、防衛が解除されず、過剰な状態が続いていること」なのです。
エッセンシャルオイルは何をしてくれるの?
エッセンシャルオイルは、花粉を消すわけでも、免疫を止めるわけでもありません。
それでも、
- 呼吸が楽に感じる
- 頭がすっきりする
- 不快感が和らぐ
と感じる人が多いのはなぜでしょうか。
鍵になるのは、エッセンシャルオイルの成分が、体のいくつもの場所に同時に働きかけるという点にあります。
鎮める → 過剰に立ち上がった反応を、落ち着かせる方向に寄せる
流す → 炎症や緊張によって生じた滞りや圧迫感が、次第に軽く感じられていく
整える → 自律神経・呼吸・感覚が、過剰な偏りから離れやすくなる
それでは、どんな成分が関わってくれるのでしょうか? 各成分についてみていきたいと思います。
① 1,8-シネオール(ユーカリプトール)

<1,8-シネオール(ユーカリプトール)が含まれる代表的なエッセンシャルオイル>
ユーカリラディアタ、ユーカリグローブルス、ローズマリー・シネオール、ラヴィンサラなど
<どんな働き?>
花粉症の鼻や喉では、免疫系が刺激を受け続けることで、炎症に関わるシグナルが過剰に活性化した状態が続いています。
1,8-シネオールは、免疫応答を一律に抑制するのではなく、炎症性サイトカインや炎症メディエーターの産生・放出に関わる過程を調整する方向に働くことが示唆されている成分です。
この調整作用を通じて、局所で起こっている過剰な炎症反応が穏やかになり、結果として、
- 鼻腔粘膜の腫脹が落ち着きやすくなる
- 気道の通気性が改善しやすくなる
- 粘稠度の高い分泌物が、より流動的になりやすくなる
といった変化が、体感として現れることがあります。
「鼻が通る」と感じる感覚は、心理的な錯覚ではなく、呼吸器粘膜の状態や分泌物の性状が変化した結果として生じる反応と考えられます。
② メントール

<メントールが含まれるエッセンシャルオイル>
ペパーミント、コーンミントなど
<どんな働き?>
メントールは、「冷たさ」や「風が当たった感じ」を感知するセンサーであるTRPM8受容体を刺激し、「冷感」や「空気が通る感じ」を脳に伝えることで、症状の知覚を和らげます。
- 息がしやすく感じる
- 呼吸が深くなる
- 苦しさに伴う不安が和らぐ
メントールには抗炎症作用も報告されていますが、芳香浴では主に呼吸の感覚や通気感を整える働きが前面に出る成分です。ただし、ペパーミントやコーンミントを単独、あるいは高濃度で用いると刺激が強く感じられることがあります。そのため、一般的には他のエッセンシャルオイルとブレンドして用いられます。
花粉症の辛さには感覚的なストレスも大きく関わっており、メントールの爽やかな芳香は、呼吸が楽に感じられることを通して、主観的なストレスの軽減につながると考えられています。
③ テルピネン-4-オール

<テルピネン-4-オールが含まれるエッセンシャルオイル>
ティーツリー、マジョラムなど
<どんな働き?>
テルピネン-4-オールは、免疫反応そのものを停止させるのではなく、炎症性メディエーターの産生や放出に関わるプロセスに影響を与え、過剰な反応が持続しにくい状態へ導く方向に働くと考えられている成分です。
この作用を通じて、局所で起こる炎症反応の強度や持続時間が調整され、身体が刺激に対して必要以上に反応し続けない状態が保たれやすくなります。
その結果として、花粉症に伴う不快感や違和感が、全体として穏やかな経過をたどりやすくなることが示唆されています。
④ α-テルピネオール

<α-テルピネオールが含まれるエッセンシャルオイル>
ラヴィンサラ、ユーカリラジアタ、カユプテなど
<どんな働き?>
花粉症では、鼻や目の症状だけでなく、イライラ感や落ち着かなさ、神経が過敏になったような感覚を伴うことも少なくありません。
α-テルピネオールは、炎症に関わる反応や神経系の高ぶりを穏やかに整える方向に働くことが示唆されている成分です。そのため、症状がはっきり言葉にできない「なんとなくつらい」「全体的にしんどい」といった感覚を、間接的に和らげる役割を果たすと考えられます。
⑤ ボルネオール

<ボルネオールが含まれるエッセンシャルオイル>
ローズマリー、シベリアモミ、スパイクラベンダーなど
<どんな働き?>
「鼻だけでなく、頭まで重い」という花粉症特有の不快感に対して、炎症を穏やかに整え、頭の重さや、ぼんやり感に関わる部分にもやさしく作用すると考えられています。特に、頭部の重さや思考の鈍さといった、局所症状を超えた不快感に関与すると考えられています。
⑥ リナロール & 酢酸リナリル(リナリルアセテート)

<リナロール & 酢酸リナリルが含まれるエッセンシャルオイル>
ラベンダー、ベルガモット、プチグレンなど
<どんな働き?>
慢性的なストレス状態では、神経系の緊張が高まり、免疫反応も過敏になりやすいことが知られています。リナロールおよび酢酸リナリルは、中枢神経系の興奮を穏やかに鎮める方向に働くことで、ストレス反応を和らげる成分です。
この神経系の緊張緩和を通じて、身体全体の過剰な反応が落ち着き、花粉症に伴う不快感も、間接的に和らぎやすい状態が生まれると考えられています。
⑦ β-カリオフィレン

<β-カリオフィレンが含まれるエッセンシャルオイル>
クローブ(抽出部位=花蕾、葉)など
<どんな働き?>
β-カリオフィレンは、免疫細胞に備わった「ブレーキ役のスイッチ(CB2受容体)」に関与することが知られており、過剰な炎症反応が続きにくい状態をサポートすると考えられています。
⑧ α-ピネン・β-ピネン(森林系の香り)

<α-ピネン・β-ピネンが含まれるエッセンシャルオイル>
シベリアモミ、フランス海岸松、ヒノキ、ジュニパーなど
<どんな働き?>
α-ピネンやβ-ピネンに代表される森林系の芳香成分は、呼吸器の粘膜で起こる過剰な炎症反応を穏やかに整え、アレルギー反応に関与する物質の放出を抑制する方向に働くことが知られています。
森の中で自然と呼吸が深くなる感覚は、単なる心理的なリラックスにとどまらず、身体の反応として“呼吸が通りやすい状態”へと導かれている結果とも言えるでしょう。
まとめ
エッセンシャルオイルは、花粉症を治す薬ではありませんが、からだが本来のバランスへと向かうための環境を整えるサポートをしてくれます。
花粉の季節に心地よい芳香浴ブレンド
<芳香浴用ブレンド>
- ユーカリ・ラディアタ……50滴
- ペパーミント……5滴
- レモン……30滴
- ローズマリー・シネオール……20滴
ディフューザー(芳香拡散器)に入れて芳香浴を行います。このブレンドオイルをあらかじめ作っておき、ディフューザーにはその中から数滴を垂らして使用してください。
※レモンが配合されているため、爽やかさが前面に出るブレンドです。より穏やかさを出したい場合は、レモンを真正ラベンダー
(またはラバンジン)に替えてもよいでしょう。
※ローズマリー・シネオールの代わりに、1,8-シネオールが多く含まれるタイプのラヴィンサラを用いることも可能です。
※小児、妊娠中の方、過敏な方、持病のある方(特に喘息の方は、香りの刺激で咳き込む可能性があるため、少量からお試しください)は使用に注意してください。
尚、本稿は、エッセンシャルオイルを医療行為として用いることを目的としたものではなく、花粉症という不快な状態を理解し、香りが体感的にどのように寄り添いうるかを整理したものです。また、これらの知見の多くは基礎研究や限定的な臨床研究に基づくものであり、個々の体感には差があります。
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