よみもの
あなたのラベンダー、本当にラベンダーですか?
2026年 9月 6日

ラベンダーはアロマテラピーに携わる私たちにとって、最も身近で愛着のあるエッセンシャルオイルではないでしょうか。最初に触れる香りとしてもおなじみで、サロンや家庭、医療現場でも広く親しまれています。
長年ラベンダーに接してきた者にとっても、植物としての側面に目を向けるにつれ、“ラベンダー”という呼称では包みきれない奥深い世界があることに気づかされます。
エッセンシャルオイルを選ぶとき、まず学名を確認することは大切です。ボトルに “Lavandula angustifolia” と記されていれば、一般に「真正ラベンダー」と判断できます。しかし、それだけで目の前の一滴のすべてが分かるわけではありません。
同じ学名の植物でも、野生に由来するのか、種子から育てられたのか、挿し木で増やされた特定の栽培品種なのかによって、遺伝的背景は異なります。さらに、産地の気候、土壌、収穫時期、乾燥方法、蒸留条件なども、エッセンシャルオイルの収量や成分組成に影響します(Aprotosoaie et al., 2017; Despinasse et al., 2020)。
「あなたが手にしているそのラベンダーは、本当に思い描いている『ラベンダー』でしょうか?」
その答えを考えるために、まず市場や情報の中で起こりやすい4つの「すれ違い」を見ていきたいと思います。
1.「ラバンジン」が単に「ラベンダー」として流通している場合も
ラバンジン(Lavandula × intermedia)は、真正ラベンダー(L. angustifolia)とスパイクラベンダー(L. latifolia)の交雑種です。真正ラベンダーより大きく育ち、エッセンシャルオイルの収量も多い傾向があるため、石けん、洗剤、芳香製品などに広く利用されています(Renaud et al., 2001)。
ところが、ラバンジン由来のエッセンシャルオイルも単に「ラベンダーLavender」と表示されることがあります。ラバンジンにも複数の栽培品種があり、成分構成は一様ではありませんが、一般に真正ラベンダーよりカンファーや1,8-シネオールが多く、香りにも力強さや清涼感があります。
これは、どちらが優れているかという問題ではありません。植物も香りも異なるため、目的や使用する人に応じて区別する必要がある、ということです。特に乳幼児を含む年齢別の使用では、エッセンシャルオイルの名称だけでなく、実際の成分組成、濃度、使用経路、使用量まで含めた安全性の確認が欠かせません(Tisserand & Young, 2014)。
2. エッセンシャルオイルの偽装・かさ増し(アドルトレーション)の現実
世界で需要が高い真正ラベンダーは、天候不順による収穫量の減少や価格高騰が起こりやすいエッセンシャルオイルです。
合成リナロールや合成酢酸リナリルを加えたり、ラバンジンなど、ほかのエッセンシャルオイルやその一部を混ぜたりする偽和が知られています(Do et al., 2015)。
真正ラベンダーの主成分であるリナロールや酢酸リナリルの割合を規格値に近付ければ、偽和されたエッセンシャルオイルでも、成分表やガスクロマトグラム(エッセンシャルオイルの成分をピークで示した分析図)が一見、真正ラベンダーらしく見えることがあります。
そのため、規格値に収まっているかを確認するだけでは十分ではありません。GC/FID(各成分の割合を調べる分析)やGC/MS(成分の種類を推定・同定する分析)を用いて、通常は見られない成分や、不自然な成分比がないかをロットごとに詳しく検証することが重要です。ただし、巧妙な偽和はこれらの分析だけでは見抜けない場合もあるため、原料の由来や生産履歴の確認なども欠かせません。
3. 「学名が同じなら、どれも同じ」という思い込み
偽和のない100%のエッセンシャルオイルであっても、“Lavandula angustifolia” と書かれているだけで、全てが同じ香りや成分組成になるわけではありません。
野生のラベンダーを調べた研究では、自然分布域の中に複数の遺伝的集団と化学型が認められ、遺伝的構造と揮発性成分のパターンに関連が示されています(Despinasse et al., 2020)。一方、同じ遺伝子型でも、環境条件、植物の生育段階、収穫や乾燥の方法によって、収量や成分比は変化します(Aprotosoaie et al., 2017)。
したがって、学名は出発点であって、品質や香りを判断するための最終回答ではありません。
4. 蒸留技術による「抽出された成分」の決定的な違い
さらに見落とされがちなのが「職人の蒸留技術」です。同じ畑で収穫された全く同じラベンダーであっても、原料の含水率や裁断状態、蒸留器への詰め方、蒸気流量、圧力、蒸留時間、冷却条件などによって、収油率と成分構成は変わるからです。
真正ラベンダーの乾燥花を用いた研究では、蒸留初期には1,8-シネオールの相対濃度が高く、酢酸リナリルは蒸留時間とともに回収割合が高まりました。また、その実験条件では収油率は約60分でほぼ上限に達し、それ以上時間を延ばしても明確には増えませんでした(Zheljazkov et al., 2013)。ただし、最適な条件は原料の状態や蒸留設備によって異なるため、この時間を全ての蒸留に当てはめることはできません。
蒸留は、植物の中にある香りをそのまま移すだけの作業ではなく、どの成分を、どの程度まで、どのようなバランスで回収するかを左右する重要な工程です。
「ラベンダー」という名前やラベルだけで判断せず、どの植物が、どのような環境と人の仕事を経て一滴になったのかを見ていくこと。その視点こそが、植物としてのラベンダーを理解する第一歩となり、確かな品質のエッセンシャルオイルを選び取るための力になります。
一括りにはできないラベンダー
ラベンダーとは、シソ科(Lamiaceae)ラベンダー属(Lavandula)に含まれる植物の総称です。英国王立植物園キューガーデンのPlants of the World Onlineは、現在、交雑種を含む41の受容種(分類体系で、独立した種として認められているもの)を掲載しています。自然分布は地中海沿岸だけに限らず、北アフリカ、西アジア、インド亜大陸などにも及びます(Royal Botanic Gardens, Kew, n.d.-a; Upson & Andrews, 2004)。
アロマテラピーや香料の領域でよく知られる代表的な4つを比較してみましょう。
1.真正ラベンダー(Lavandula angustifolia)

真正ラベンダーは、「コモンラベンダー」「イングリッシュラベンダー」とも呼ばれます。Lavandula officinalisは本種のシノニムとして扱われています。
エッセンシャルオイルでは、一般にリナロールと酢酸リナリルが主要成分となり、カンファーは少ない傾向があります。ただし、その割合には品種、産地、気象条件、収穫時期、乾燥、蒸留方法による幅があります。
真正ラベンダーのエッセンシャルオイルの品質規格であるISO 3515も、フランスのポピュレーションラベンダーと各地のクローンラベンダーを分けて特性を示しています(International Organization for Standardization, 2002)。
なお、市場で「野生ラベンダー」「ラベンダー・ソバージュ」などと呼ばれるものは、通常、真正ラベンダーとは別の植物種ではなく、野生状態で生育する L. angustifolia や、そのエッセンシャルオイルを示す生産・流通上の呼称です。
かつて使われたLavandula veraも、現在は独立した受容種名ではありません。Kew(英国王立植物園キューガーデン)では L. angustifoliaの亜種に整理されるシノニムとされています(Royal Botanic Gardens, Kew, n.d.-b)。
したがって、「野生ラベンダー=L. vera」「栽培ラベンダー=L. angustifolia」という分け方は、植物分類上は正確ではありませんが、野生ラベンダーと栽培ラベンダーを区別するために、便宜的に使われているということです。

2. スパイクラベンダー(Lavandula latifolia)

スパイクラベンダーは、真正ラベンダーより幅の広い葉を持ち、花茎が枝分かれする姿が特徴的です。種小名のlatifoliaは「広い葉」を意味します。
エッセンシャルオイルは、リナロールに加えて1,8-シネオールやカンファーを比較的多く含み、真正ラベンダーよりも清涼感と鋭さのある香りになります。ただし、自然集団の間にも大きな化学的変異が報告されており、生育地域だけで一律に成分を決めることはできません(Muñoz-Bertomeu et al., 2007)。
3. ラバンジン(Lavandula × intermedia)

ラバンジンは、真正ラベンダーとスパイクラベンダーの交雑によって生まれた植物です。Kewは、この交雑種の自然分布域をフランス南東部からスペイン北東部としています(Royal Botanic Gardens, Kew, n.d.-c)。
株が大きく、収量が多いことから、現在の商業的なラベンダー栽培を支える重要な植物となっています。南フランスで見られる、均一な紫色の畝の多くもラバンジンです(Lis-Balchin, 2002; Upson & Andrews, 2004)。
代表的な栽培品種には、Lavandula × intermedia ‘Super’、‘Abrial’、‘Grosso’などがあります。一般に‘Super’は比較的柔らかなフローラル調、‘Abrial’はリナロールを多く含む傾向、‘Grosso’はカンファーが比較的多く、力強い香りを示す傾向があります。ただし、品種名だけで成分比を断定せず、ロットごとの分析値を確認することが大切です(Renaud et al., 2001)。
4. ストエカスラベンダー(Lavandula stoechas)

ストエカスラベンダーは、花穂の上部に、ウサギの耳にも見える大きな苞を付けます。「フレンチラベンダー」と呼ばれることがありますが、この英名は地域や園芸流通によって別種にも使われるため、学名の確認が必要です。
エッセンシャルオイルは、フェンコンやカンファーを多く含む型が知られ、真正ラベンダーとは大きく異なる、鋭くスパイシーな香りを示します。ケトン類を多く含む可能性があるため、名称の印象だけで判断せず、成分分析と安全性を確認する必要があります(Aprotosoaie et al., 2017; Tisserand & Young, 2014)。
【深堀り】真正ラベンダー Lavandula angustifolia の多様性
同じLavandula angustifoliaという学名を持ちながら、香りや成分組成に違うエッセンシャルオイルがあります。ロット差では説明がつかない相違です。
「野生」「種子繁殖による栽培」「クローン栽培」という生育条件の違いに起因します。
野生 ― 土地の中で受け継がれる多様性
野生の真正ラベンダーは、人が選抜した一つの遺伝子型ではなく、自然な受粉と種子繁殖を通して世代を重ねてきた集団です。株ごとに遺伝子型が異なり、形態や揮発性成分にも差が生じます。
Despinasseらは、14地点に生息する野生のラベンダーを調べ、3つの遺伝的集団と4つの化学型を見いだしました。これは、「野生ラベンダー」という一つの固定した成分型が存在するのではなく、野生の集団そのものが多様であることを示しています(Despinasse et al., 2020)。
野生ラベンダーに感じられる複雑さや奥行きは、官能的な価値として評価されることがあります。ただし、野生であることだけをもって、栽培品より常に高品質、安全、低刺激と判断することはできません。
畑の中に多様性を残す種子繁殖による栽培
種子から育てる栽培では、一つ一つの種子が有性生殖によって生じるため、畑の株は全て同じ遺伝子型にはなりません。同じ種子集団に由来していても、株ごとに草丈、開花時期、収量、香り、成分構成などに違いが生じます。
栽培に使われる種子には、野生集団から採取されたものだけでなく、地域で長く採種されてきたものや、香り、収量、病害への耐性などを基準に選抜・育成されたものもあります。したがって、種子繁殖であることが、直ちに野生由来であることを意味するわけではありません。
野生集団から採取した種子を使う場合、育った株は、元の野生集団が持つ遺伝的多様性の一部を受け継ぎます。ただし、採種した地域や株数が限られていれば、元の集団全体の多様性がそのまま再現されるとは限りません。また、畑に移された後は、土壌、気候、栽培管理など、自生地とは異なる環境の影響を受けます。
さらに、その畑で生育の良い株や、香り、収量、開花時期などに優れた株から採種を繰り返せば、意図的かどうかにかかわらず、世代を重ねるうちに一定の方向へ選抜されていく可能性があります。野生由来の種子から始まったとしても、長く栽培と採種を続けてきた集団は、野生集団そのものではなく、栽培環境の中で維持されてきた種子集団と捉えるのが適切です。
種子繁殖の大きな利点は、畑の中に遺伝的な多様性を残せることです。遺伝子型が異なれば、乾燥、寒さ、病害などに対する反応も株によって異なる可能性があります。そのため、ある環境変化が起きたときに、全ての株が同じ影響を受けるとは限りません。一部の株がよりよく適応し、次の世代へ性質を受け継ぐことで、集団全体が地域の環境に適応していく余地が生まれます。
この多様性は、将来の栽培に必要な性質を選ぶための遺伝資源にもなります。気候の変化や新たな病害に直面したとき、耐乾燥性、耐寒性、病害への耐性、香り、収量などが異なる株を集団内に維持していることは、新しい種子系統を選抜・育成する上で重要です。
ただし、遺伝的に多様であれば、必ず病害に強くなり、安定した収量が得られるというわけではありません。種子集団の中に必要な性質を持つ株が存在するかどうか、また、その土地の環境に適しているかどうかによって結果は変わります。種子繁殖の利点は、特定の性質を保証することではなく、集団の中に異なる応答の可能性を残せる点にあります。
こうした遺伝的に異なる株を畑全体から収穫し、一緒に蒸留することで、多数の個体の特徴が重なり、一つのロットが形作られます。株ごとに揮発性成分の種類や比率が少しずつ異なるため、エッセンシャルオイルには複数の香調が重なった複雑さや奥行きが生まれることがあります。
一方で、香りや成分組成のばらつきが、クローン栽培より大きくなる可能性もあります。種子繁殖によるエッセンシャルオイルの価値は、常に均一な香りを再現することよりも、多様な個体が形作る集団としての香りと、その土地の環境に適応していく可能性にあるといえます。
選ばれた特性を再現するクローン栽培
クローン栽培では、香り、エッセンシャルオイルの成分組成、収量、開花時期、草姿、耐寒性、病害への耐性など、生産目的に合う特性を持つ株を選び、挿し木などの栄養繁殖によって増やします。
種子繁殖では、受粉によって両親の遺伝情報が組み合わされるため、親株と全く同じ性質を持つ株が生まれるとは限りません。一方、挿し木は、選ばれた株の枝を発根させて増やす方法です。挿し木から育った株は、原則として元の株と同じ遺伝子型を持つため、選抜した特性を次の株へ受け継ぎやすくなります。
クローン栽培の利点は、畑全体の性質を比較的そろえやすいことです。株の成長速度や草丈、開花時期が近くなるため、収穫に適した時期を判断しやすく、一斉に収穫して蒸留する生産にも適しています。エッセンシャルオイルの収量や成分組成、香りについても、種子繁殖による集団より、選抜された品種としての特徴を再現しやすくなります。
一定の品質や香りを継続して供給する必要がある場合、この再現性は重要な利点です。特定の成分組成を持つエッセンシャルオイルを求める香料、化粧品などの用途では、原料植物の遺伝的な均一性が、生産の見通しを立てやすくする一つの要素になります。
ただし、同じ遺伝子型であれば、毎年全く同じエッセンシャルオイルが得られるわけではありません。植物が実際に示す性質は、遺伝的背景と生育環境の相互作用によって形作られます。同じクローン品種でも、標高、気温、日照、降水量、土壌、水分、施肥、病害などの条件が変われば、植物の生育やエッセンシャルオイルの産生にも違いが生じます。
収穫の時期や花の成熟度も重要です。開花のどの段階で収穫するかによって、エッセンシャルオイルの収量や成分の比率が変化する可能性があります。さらに、刈り取ってから蒸留するまでの時間、原料植物の状態、蒸留時間、蒸気量、蒸留器への詰め方なども、最終的なエッセンシャルオイルの香りや成分組成に影響します。
したがって、クローン栽培によってそろえられるのは、主に植物の遺伝的な土台です。環境や収穫、蒸留による変動までなくなるわけではありません。「同じクローン品種だから毎年同じエッセンシャルオイルになる」というよりも、「遺伝的な違いに由来するばらつきを抑え、品種としての特徴を一定の範囲で再現しやすくする」と捉える方が適切です。
一方、畑を一つのクローン品種で構成すると、株同士の遺伝的な違いは小さくなります。特定の病原体や極端な気象条件に対する反応も似通う可能性があるため、そのクローンが影響を受けやすい条件では、畑全体に被害が広がることがあります。ただし、遺伝子型が同じでも、株ごとの生育状態や畑の微細な環境は異なるため、全ての株が必ず同じ程度の被害を受けるとは限りません。
クローン栽培の価値は、選ばれた性質を高い再現性で維持できることにあります。その一方で、種子繁殖による集団が持つような遺伝的な幅は小さくなります。香りや収量の安定性を重視するのか、集団としての多様性や環境への適応の幅を重視するのかによって、それぞれの栽培方法の評価は変わります。
「野生」「種子繁殖」「クローン」は優劣ではなく、異なる成り立ち
野生集団、種子繁殖による栽培、クローン栽培は、単純な品質の順位を示すものではありません。
野生集団には、その土地で受け継がれてきた遺伝的多様性があります。種子繁殖による栽培は、畑の中に個体差を残しながら、生産に適した集団を維持する方法です。クローン栽培は、選抜された特性をそろえ、比較的安定して再現することに適しています。
どの方法にも、それぞれ異なる価値と課題があります。複雑な香りを重視するのか、成分組成や収量の安定性を求めるのか、地域環境への適応性を大切にするのかによって、評価は変わります。
同じLavandula angustifoliaという学名が表示されていても、そのエッセンシャルオイルがどのような植物集団から作られたのかまでは、学名だけでは分かりません。産地や標高だけでなく、野生採取なのか、種子繁殖なのか、特定のクローン品種なのかを知ることで、成分分析表に現れる違いや香りの個性を、より立体的に理解できるようになります。
蒸留が引き出す「もう一つの個性」
育ったラベンダーの特性を、最終的なエッセンシャルオイルへとつなぐのが蒸留です。
エッセンシャルオイルの成分が抽出される順序は、各成分の常圧沸点だけでは決まりません。水蒸気中での蒸気圧、水への溶解性、植物組織から放出される速さ、原料の乾燥状態や詰め方、蒸気流量などが複雑に関係します。そのため、「低沸点成分が先、高沸点成分が後」と単純に分けることはできません。
また、酢酸リナリルなどのエステル類は、原料が水と長く接触する条件などでは加水分解や転位などの影響を受ける可能性があります。一方で、蒸留時間が短過ぎれば、まだ植物中に残っている成分を十分に回収できません。時間を延ばせば必ず良くなるわけでも、低圧でゆっくり蒸留すれば常に高品質になるわけでもありません。原料と設備に応じた条件を見極めることが重要です(Masango, 2005; Zheljazkov et al., 2013)。
蒸留条件は、GC/MS分析などで捉えられる成分組成に影響します。しかし、分析値が近いエッセンシャルオイルでも、微量成分や成分間の相互作用によって、香りの印象が同じになるとは限りません。化学分析と官能評価は、どちらか一方で代替できるものではなく、互いを補い合うものです。
「高地産だから高品質」とは限らない
アロマテラピーの世界では、「高地産のラベンダーは品質が高い」と語られることがあります。しかし、標高は、それだけで品質を決める指標ではありません。
標高が変われば、気温、日射、紫外線、降水、土壌水分、生育期間など、多くの環境条件も変化します。さらに、植物がもともと持つ遺伝子型、開花段階、収穫時期、乾燥、蒸留条件も成分組成に関係します。
したがって、ラベンダーのエッセンシャルオイルの個性は、概念的に「遺伝的背景 × 生育環境 × 植物の生育段階・収穫 × 蒸留・加工条件」と捉えることができます。
標高は、その中の一要素で、産地や標高の数字だけから、エッセンシャルオイルの真正性、安全性、香りの良さを断定することはできません。
一滴の背景を読む
「あなたのラベンダー、本当にラベンダーですか?」
この問いへの答えは、単に本物と偽物を分けるだけでは、たどり着けません。
まず学名を確かめること。真正ラベンダー、スパイクラベンダー、ラバンジン、ストエカスラベンダーを混同しないこと。その上で、野生か栽培か、種子繁殖かクローンか、どの土地で育ち、いつ収穫され、どのように蒸留されたのかを見ていくこと。そして、成分分析と実際の香りの双方を丁寧に確かめること。
目の前の一滴が、どのような植物から生まれ、どの土地で育ち、誰の手で採取・蒸留され、ここまで届けられたのか。その背景に折り重なる植物の営みと人の仕事を読み解く中に、答えがあります。
そして、香りをかぐことも大切な鑑定方法です。
そんな多元的な視点を持つことで、普段のセラピーやエッセンシャルオイル選びは、より確かで、奥行きのあるものになっていくのではないでしょうか。
真正ラベンダー、野生ラベンダー、ラバンジン、スパイクラベンダーのエッセンシャルオイルについてのセルフケアはこちらをご参照ください。
参考文献:
Aprotosoaie, A. C., Gille, E., Trifan, A., Luca, V. S., & Miron, A. (2017). Essential oils of Lavandula genus: A systematic review of their chemistry. Phytochemistry Reviews, 16, 761–799.
Despinasse Y, Moja S, Soler C, Jullien F, Pasquier B, Bessière JM, Noûs C, Baudino S, Nicolè F. (2020). Structure of the Chemical and Genetic Diversity of the True Lavender over Its Natural Range. Plants (Basel). 9(12):1640.
Do, T. K. T., Hadji-Minaglou, F., Antoniotti, S., & Fernandez, X. (2015). Authenticity of essential oils. TrAC Trends in Analytical Chemistry, 66, 146–157.
International Organization for Standardization. (2002). Oil of lavender (Lavandula angustifolia Mill.) (ISO Standard No. 3515:2002).
Lis-Balchin, M. (Ed.). (2002). Lavender: The genus Lavandula. Taylor & Francis.
Masango, P. (2005). Cleaner production of essential oils by steam distillation. Journal of Cleaner Production, 13(8), 833–839.
Muñoz-Bertomeu, J., Arrillaga, I., & Segura, J. (2007). Essential oil variation within and among natural populations of Lavandula latifolia and its relation to their ecological areas. Biochemical Systematics and Ecology, 35(8), 479–488.
Renaud, E. N. C., Charles, D. J., & Simon, J. E. (2001). Essential Oil Quantity and Composition from 10 Cultivars of Organically Grown Lavender and Lavandin. Journal of Essential Oil Research, 13(4), 269–273.
Royal Botanic Gardens, Kew. (n.d.-a). Lavandula L. Plants of the World Online. Retrieved September 6, 2026, from https://powo.science.kew.org/taxon/urn:lsid:ipni.org:names:20960-1
Royal Botanic Gardens, Kew. (n.d.-b). Lavandula vera DC. Plants of the World Online. Retrieved September 6, 2026, from https://powo.science.kew.org/taxon/urn:lsid:ipni.org:names:449097-1
Royal Botanic Gardens, Kew. (n.d.-c). Lavandula × intermedia Emeric ex Loisel. Plants of the World Online. Retrieved September 6, 2026, from https://powo.science.kew.org/taxon/urn:lsid:ipni.org:names:449048-1
Tisserand, R., & Young, R. (2014). Essential Oil Safety: A Guide for Health Care Professionals (2nd ed.). Churchill Livingstone.
Upson, T., & Andrews, S. (2004). The Genus Lavandula. Royal Botanic Gardens, Kew.
Zheljazkov, V. D., Cantrell, C. L., Astatkie, T., & Jeliazkova, E. (2013). Distillation Time Effect on Lavender Essential Oil Yield and Composition. Journal of Oleo Science, 62(4), 195–199.